マルメロ(学名Cydonia oblonga Mill.)はバラ科(Rosaceae)の小型の果樹で、香り高く渋みの強い果実が数千年にわたって珍重されてきました。原産地は小アジアから南東ヨーロッパにかけての比較的温暖な地域で、料理にも民間療法にも取り入れられ、とりわけ茶や浸出液、果実を煮て作る甘味として親しまれています。実験室レベルの研究では抗炎症、抗菌、抗酸化の作用が調べられており、植物化学や薬理学の分野で関心が高まっていますが、臨床試験による確認はまだ得られていません。

一般名と国際名
日本語ではマルメロが樹木と果実の両方を指し、漢字では榲桲と書かれます。マルメロと混同されることのあるカリン(Pseudocydonia属)や、近縁のボケ(Chaenomeles属)は別の植物であるため、このリストには含めていません。
- 日本語: マルメロ、榲桲。
- イタリア語: cotogno、melo cotogno。
- 英語: common quince、quince。
- スペイン語: cidonia、membrillo。
- ドイツ語: Echte Quitte、Quitte。
- フランス語: cognassier、coing。
- ポルトガル語: marmeleiro、marmeleiro-da-europa、marmelo。
学名上の異名
この種の学名としてはCydonia oblonga Mill.が最も広く認められていますが、植物学の歴史の中では、時代ごとの分類や観察の違いを反映したいくつかの異名が記録されてきました。よく知られたものにCydonia vulgarisやPyrus cydonia L.があり、これらの名前からは、この植物の分類学上の変遷や、バラ科のほかの種との関係をたどることができます。
科:バラ科(Rosaceae)
マルメロはバラ科(Rosaceae)に属します。バラ科は経済的に重要な果樹を数多く含む大きく多様なグループで、イチゴ、ナシ、モモ、リンゴなどもこの科の仲間です。一般に目を引く花とさまざまな形の果実を特徴とし、世界中に広く分布していますが、その中でCydonia oblongaはCydonia属の唯一の種であり、植物学的にも独特な存在といえます。
茶や調製に用いる部位
- 果実(煮る、または焼いて、茶、甘味、ジャム、マルメラーダに)
- 種子(丸ごと水に浸して粘液を得る場合に限り、その後は廃棄)
- 葉(乾燥させて浸出茶に)
民族植物学的・伝統的用途
マルメロは歴史を通じて、さまざまな文化で料理にも民間療法にも用いられてきました。ポルトガルでは果実を煮て、とくにマルメラーダ(マルメロを砂糖で煮詰めた固めのペースト)にするか、オーブンで焼いて食べるのが伝統で、渋みが強いため生で食べることはまれですが、ブラジルでは工業製品としての消費が中心で、やはりマルメラーダの生産が大部分を占めています。民間療法では種子を下痢止めとして用いる記録もありますが、これは必ず丸ごとの種子を水に浸したときに出てくる粘液の形で使われるもので、伝統的な記録の域を出ず、臨床的な裏付けはありません。葉や果実の浸出茶もこうした家庭の知恵の一部で、一時的な下痢や腸内のガスなど、軽い消化器の不調と伝統的に結びつけられています。
薬用特性
以下の特性は、民間の伝承と、実験室研究や動物実験で得られた知見をまとめたもので、いずれも医師による診断や治療に代わるものではありません。
- 肝保護作用 (動物実験で観察された作用)
- 強壮作用 (全身の強壮剤として用いられてきた伝統的な記録)
- 駆風作用 (腸内のガスを和らげるという伝統的な記録)
- 血糖降下作用 (動物実験で血糖値の低下が観察されているが、臨床的な裏付けはない)
- 抗アレルギー作用 (実験室研究で観察された活性で、臨床的な裏付けはない)
- 抗うつ作用 (動物モデルでのみ調べられた作用で、臨床的な裏付けはない)
- 抗炎症作用 (実験室研究と動物実験で観察された作用)
- 抗菌作用 (実験室研究で観察された微生物に対する作用)
- 抗酸化作用 (果肉、果皮、種子のポリフェノールについて実験室で測定された活性)
- 収れん作用 (組織を引き締める作用で、軽い下痢に用いる伝統的な用途の根拠)
- 利尿作用 (伝統的な記録で、裏付けとなる臨床研究はない)
フィトケミカルプロファイル
マルメロは生理活性化合物の豊富な供給源で、その植物化学的組成にはカフェオイルキナ酸類、タンニン、配糖体、フラボノイド、ペクチン、ポリフェノールが含まれ、果皮、果肉、葉、種子のあいだで不均一に分布しています。果皮やほかの部位に豊富なポリフェノールとフラボノイドは、実験室で測定された抗酸化活性の大部分を担っており、果実に高濃度で含まれるペクチンは、食品産業や製薬産業で重要な用途をもつ多糖類です。一方、種子には収れん作用や抗菌作用に関わるタンニンと配糖体が含まれ、その配糖体のひとつが、種子を砕いたり噛んだりするとシアン化物を放出しうるシアン生成化合物、アミグダリンです。
- アミグダリン(種子に含まれるシアン生成配糖体)
- カフェオイルキナ酸類(ポリフェノール群に属するフェノール化合物)
- タンニン(生の果実の渋みに関わり、種子にも含まれる)
- 粘液質(丸ごとの種子が水に触れると表面から出てくるゲル)
- フラボノイド(主に果皮に集中)
- ペクチン(果肉に豊富な多糖類)
- ポリフェノール(抗酸化活性の主な担い手)
調製方法(茶、チンキ、エキス)
- エキス
- 果実(煮る、または焼く)
- ジャムとマルメラーダ
- 種子の粘液(丸ごとの種子を砕かずに水に浸す)
- 茶(葉や果実の浸出液)
- チンキ
家庭では、マルメロは主に食品として利用され、煮たり焼いたり、ジャムやマルメラーダに加工したりして食べられています。生の果実は渋みが非常に強く、加熱してから食べるべきだからです。葉や果実の浸出茶は家庭で淹れる一般的なお茶と同じ要領で作りますが、エキスやチンキは濃縮された形態であり、使用量と使用期間は医療専門家が判断する必要があります。伝統的な粘液は丸ごとの種子を水に浸して得るもので、種子を砕いたり、噛んだり、飲み込んだりしてはならず、ゲルが出たあとの種子は廃棄します。
他の植物との相乗効果
民間の伝承では、マルメロはほかの薬用植物と組み合わされて家庭での調合に用いられてきましたが、こうした組み合わせは臨床研究で評価されていないため、どの組み合わせも事前に医療専門家と相談するべきで、とくに薬を継続して服用している人は注意が必要です。
カモミール・ペパーミントとの組み合わせ
消化器の不調に対しては、マルメロをカモミール(Matricaria chamomilla)またはペパーミント(Mentha × piperita)と合わせる伝統的な記録があり、どちらも食後に飲む家庭のお茶として定評のあるハーブです。
エキナセア・ショウガとの組み合わせ
免疫に関わる民間の調合では、マルメロがエキナセア(Echinacea purpurea)またはショウガ(Zingiber officinale)とともに登場しますが、この組み合わせは伝統的な知恵に属するもので、ヒトを対象とした研究でその効果は確認されていません。
レシピと利用法
マルメロの葉の伝統的な浸出茶
材料:乾燥させたマルメロの葉 大さじ1、熱湯 250 ml。
作り方:乾燥させた葉を熱湯に入れ、ふたをして10分間蒸らしてから、こしてぬるめの温度で飲みます。この浸出茶は葉の収れん作用から、軽い下痢のときに伝統的に用いられてきましたが、飲む頻度や期間については医療専門家に相談してください。下痢が長引く場合や発熱・血便を伴う場合、また子どもや高齢者の場合は、お茶を使う前に必ず医師の診察を受けてください。
冬に向けた自家製マルメラーダ
材料:熟したマルメロ 1 kg、砂糖 800 g、レモン果汁 1個分。
作り方:マルメロをよく洗い、皮と種子を取り除いて(種子は廃棄します)、果肉を適当な大きさに切ります。果肉を水で柔らかくなるまで煮たら湯を切り、裏ごし器でこすか、ミキサーにかけてピューレ状にします。ピューレを砂糖とレモン果汁とともに火にかけ、絶えずかき混ぜながら、生地が鍋底から離れるようになるマルメラーダの固さまで煮詰めたら、煮沸消毒した瓶に詰めます。マルメラーダは栄養のある伝統的な甘味で、パンやチーズによく合います。
上記の調製法は伝統的な記録に基づくものであり、専門家の助言に代わるものではありません。内服される前に、本記事に記載されている禁忌および相互作用をご確認ください。
関連する療法
植物療法(フィトセラピー)
植物療法では、マルメロのエキスが胃腸の不調や炎症性のプロセスを対象とした製剤に用いられるほか、その抗酸化活性についても研究が進められています。果実にペクチンが豊富なことも、消化器の健康に関わる製剤への関心の理由となっていますが、マルメロを植物療法に用いる場合は、資格をもつ専門家の指導のもとで、一人ひとりに適した使い方と量を決めてもらう必要があります。
機能性栄養学
食生活においては、煮たり焼いたりしたマルメロやジャムにしたマルメロが、甘味にとろみを与える水溶性食物繊維であるペクチンの供給源として重視されており、伝統的には便を固めることと結びつけられています。マルメラーダには砂糖が多く使われるため、血糖値の管理が必要な人は、頻繁に食事に取り入れる前にこの点を考慮してください。
禁忌と副作用
マルメロは昔から食べられてきた食品で、料理として食べる分には一般に問題なく受け入れられますが、薬用として用いる場合にはいくつかの注意が必要です。種子にはアミグダリン(シアン生成配糖体)が含まれています。伝統的な粘液は丸ごとの種子を水に浸して抽出するもので、種子を砕いたり、噛んだり、飲み込んだりしては決してならず、使用後の種子は廃棄しなければなりません。種子が割れるとアミグダリンから有毒なシアン化水素が発生するおそれがあるため、すりつぶした種子を含む調製物は一切作ってはいけません。
生の果実は渋みが非常に強いため、加熱して食べるべきです。同じ収れん作用により、マルメロを食べすぎると便秘を引き起こしたり悪化させたりすることがあり、痔のある人には勧められません。植物のいずれかの成分に過敏症やアレルギーがある人は使用を避けてください。アレルギー反応はまれですが、起こる可能性はあります。
妊娠中・授乳中の人はとくに注意が必要です。妊娠中および授乳中の薬用としての使用(食品としての摂取を除く)については安全性のデータがないため、煮た果実やマルメラーダを食品として摂る範囲にとどめることが推奨されます。子どもに葉や果実のお茶を与えるのは小児科医の指導がある場合に限り、種子は決して子どもの手の届くところに置かないでください。糖尿病の薬(血糖降下薬)や抗うつ薬を使用している人は、マルメロのエキスやチンキを使う前に医師に相談してください。動物実験で血糖や気分への作用が調べられている一方、ヒトでの相互作用は評価されていないためです。
また、マルメロをChaenomeles属やPseudocydonia属の植物と混同しないようにしてください。これらはそれぞれボケ、カリンと呼ばれる別の種で、使用法や安全性に関するデータが同じとは限りません。迷う場合や薬用目的で使用する場合は、医療専門家に相談してください。
豆知識
マルメロには興味深い逸話が数多くあり、その始まりは古代ギリシャにさかのぼります。当時マルメロは女神アフロディーテと結びつけられ、愛と豊穣と幸福の象徴とされていました。ギリシャの花嫁は結婚式の前に息を香らせるためにマルメロを食べるのが習わしで、ヘスペリデスの園のリンゴのように神話に登場する黄金のリンゴは、実はマルメロだったのではないかとも考えられています。マーマレードという言葉自体、ポルトガル語のmarmelo(マルメロ)から生まれたmarmeladaに由来しており、料理の歴史におけるこの果実の重要性を物語っています。またバルカン半島には、赤ちゃんが生まれると生命と愛と豊穣の象徴としてマルメロの木を植える伝統があります。この木は数千年前から栽培されており、古代メソポタミアですでに栽培されていたとする記録もあります。
アジア原産のChaenomeles属やPseudocydonia属の植物もバラ科に属しますが、本来のマルメロとは別の植物です。ボケやカリンという名前が指しているのはこれらの植物で、カリンの名はときに誤ってCydonia oblongaに使われることもあります。
よくある質問
マルメロ茶は子どもにも安全ですか?
マルメロの葉や果実で淹れたお茶は、子どもには少量だけ、必ず小児科医や植物療法の専門家の指導のもとで与えてください。種子にはシアン生成配糖体であるアミグダリンが含まれているため、決して砕いたり、噛んだり、飲み込んだりさせてはいけません。マルメロの調製物を子どもに与える前には、医療専門家に相談してください。
マルメロ茶は消化のために伝統的にどう使われていますか?
民間の伝承では、マルメロ茶はその収れん作用から、とくに軽い下痢のときに用いられ、腸内のガスを和らげる駆風剤としても使われてきました。実験室研究では消化管における抗炎症作用の可能性も調べられており、果実のペクチンは便を固めることと結びつけられています。こうした用途は医師の診察に代わるものではなく、下痢が長引く場合はなおさらです。
妊娠中にマルメロを使っても大丈夫ですか?
妊娠中および授乳中のマルメロの薬用としての使用については、食品としての摂取を除き、安全性のデータがありません。煮た果実やマルメラーダは伝統的に食品として食べられていますが、確かな研究がないからこそ、妊娠中・授乳中の人は医師の指導なしにお茶や濃縮エキスを使うのは避けるべきで、迷ったときは産婦人科医に相談するのが最善です。
マルメロの種子は食べられますか?
いいえ。種子にはアミグダリンというシアン生成配糖体が含まれており、種子が割れるとシアン化水素を放出するおそれがあります。伝統的な用途は粘液に限られ、丸ごとの種子を砕いたり噛んだりせずに水に浸して得るもので、使用後の種子は廃棄しなければなりません。
マルメロはなぜ生で食べないのですか?
生のマルメロは果肉が硬く渋みが非常に強いため、加熱して食べるべきです。煮たり焼いたり、ジャムやマルメラーダにしたりすると、果実は柔らかく香り高くなり、ポルトガルやブラジルでは伝統的にこうした形で食べられています。
マルメロとカリンは同じ植物ですか?
いいえ。カリンやボケという名前はPseudocydonia属やChaenomeles属の植物を指し、これらは同じバラ科に属するものの、Cydonia oblongaとは別の種です。そのため、一方の植物の使用法や安全性に関する情報を、もう一方にそのまま当てはめるべきではありません。
ご注意:本コンテンツは情報提供を目的としており、医療専門家の助言に代わるものではありません。薬用植物を使用する前に、特に妊娠中、授乳中、または薬を服用中の場合は、医師または専門家にご相談ください。
参考文献
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